まず始めに誤解のないように。僕はトスカニーニという指揮者は嫌いではありません。シンパシーを感じている部分も多々あります。

彼の指揮ぶりは「余りに無慈悲すぎる」という評はありますが、それはベストコンディションではなかったからだと思うのです。好不調が、こんなところに表われるなんて、実に面白い指揮者です。

ハイフェッツと組んだベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、トスカニーニのその不調さにおいて最右翼の演奏だと個人的に考えています。

まず、この曲の冒頭のティンパニの四つ打ち。これは「このテンポで行きますよ」というとても大事な約束です。だから、本来ならこのテンポは死守しなくてはならないもの。つまり、ほとんどの指揮者がこの曲を誤解していると僕は考えています。

トスカニーニもしかり。むやみにテンポを変化させ曲想を描き分けようとしていますが、なんとも地に足の付かない演奏になってしまっていると思います(どこがイン・テンポの指揮者なんでしょう?そういう聞き手の感性こそイン☆テン☆なのでは?)。

それと、この楽章に特徴的な、全休符。ここは決してリズムを詰めてはいけない部分です。大事な休符なのです。けれど、トスカニーニは「半拍以上早いんじゃない?」と思えるほど、この休符をないがしろにしています。

空飛びな発想かもしれませんが、この休止をしっかり取らせるために、ティンパニ四つ打ちの「縛り」をベートーヴェンは与えたのではないかとすら思えるのです。

そういう意味で、このベートーヴェンの理想を体現しているのは、僕の知る限りドラティしかいません。

けれど、この「鳴っていない部分の正確さ」などというのは、トスカニーニは本来得意とするはずですが、なぜこの演奏は乱れてしまっているのでしょうか?

その理由は「ハイフェッツとの共演」としか思えないのです。超人的な技巧で度肝を抜かれてしまって、その心の乱れが指揮に表われてしまったのではないでしょうか。

第2楽章以降はまったく素晴らしいです。

誠に興味深い盤ではございます。