2011年08月



ダニで苦しんだ話とかしました。

歌った歌、「花火大会」「恋に乗って」「カナリア諸島にて(カバー)」

今週は更新が水曜日になりました。すいませんでした。



ブライアン・ウィルソンの『スマイル』が発売されて、7年たった。もっと前の作品かと思ったけれど、まだ最近のことなんだなぁ、と思う。

このアルバムの母体は、ブライアンがリーダーとして所属していたグループ、ビーチ・ボーイズの『スマイル』という未完成のアルバム。これは1966年に発売が予定されていたけれど、ブライアンの精神的不調やメンバーとの確執から未完成となっていた。しかし、おかしなことに、これは未発表にもかかわらず、ビーチ・ボーイズの最高傑作と言われ続けていた。公式盤の穴埋めとして発表されたナンバーや、海賊盤として流出した音源も多数あるからだ。それをブライアンが38年ぶりに録音をやり直し完成させたのだ。

この歳になると、7年も38年も変わらないというような気もする。

人間は振り返る時どうして「内容の薄い人生だったんだろう」と思うのだろうか。その密度の濃さで年月の流れが決定しているような気がする。

私と同じような38年間を過ごしてきた人にとって、リアルタイムの『スマイル』の告知なんて、つい最近のように思うに違いない。そして、その興奮を追体験できるのだろう。もちろん、ブライアン・ウィルソンも『スマイル』は過去のことではなく、常にリアルなものだったのだろう。15年間をベッドの上で過ごしていたのだからなおのこと。

さて、ブライアン・ウィルソンの『スマイル(以下、新スマイル)』だけれど、私は、このアルバムを歓迎していなかった。そういう気持ちで聞いていたので、このアルバムにたいする評価はとても辛いものだった。

なぜか。それは、ビーチ・ボーイズの『スマイル(以下、旧スマイル)』を聞き過ぎていたからだ。そして、私は一つの結論を持っていたのだ。「『スマイル』は部品が全然足りていない」と。もっとこれを上回る、想像以上の作品だったのだろう、と。

しかし、『新スマイル』を聞いて驚いた、ほとんどが聞いたことのあるメロディであり、つまり、自分の「想像内」のもので完成されてしまっていたからだ。

「やっぱり若いブライアンの声でないと」とか「ビーチ・ボーイズのコーラスがないと」とか「やっぱりあの時代の『音』でないと」とかいろいろ理由をつけていたが、つまるところは「想像内であった」という不満が一番の原因だと7年目で気づくことになった。それは、熱心なファンほどその失望は大きかったに違いないと、勝手に想像しているが。そしたら、リサイクルの多い『ゲッティン・オーヴァー・マイ・ヘッド』などにももう少し高い評価を与えてしかるべきなのではないか。

しかし、そんなにかたくなになることもなかったのではないかと今では思う。

向き合おうとしなければ、関係というのはそれで終わってしまうものである。それは人も物も同じことだ。7年間、このアルバムは私に向かって「笑い(スマイル)」続けていたにもかかわらず、私はそれを振り返ろうともしなかった。

批判するものより、歓迎したものの方が強い。当たり前のことだ。
そういう人に私はなりたい・・・。
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さて、感傷的な気分に浸るのはこれくらいにして、このアルバムの批判を展開しようと思う(←!)。

私の考えるアルバムの問題点は以下のとおりである。

(1)音が整理整頓され過ぎている
(2)『旧スマイル再現』にとらわれ過ぎている
(3)演奏が丁寧過ぎる

まず(1)だが、これは結構致命的なダメージだ。音が細身ですっきりしてしまっていて、『旧スマイル』の頃の、分厚いエコーのようなものがまるでなくなっている。この腰のあるサウンドこそがあの頃のブライアンのトレードマークだったと思うからだ。テープヒスがないのもなんとなく心細い印象を与える。

その割に(2)な訳だから、その不徹底さを感じてしまうのもいたしかたない。これはサウンド面だけを言っているわけではない。ブックレットにしてもそうだ。『旧スマイル』はマンガをあしらったブックレットが付属する予定だったらしいが、『新スマイル』にも、やはり漫画をあしらった賑やかなブックレットになっている。しかしこれがなんとなく『旧スマイル』のパロディのようで興ざめなのである。

演奏はさすがにパロディという感じはしないが、やはり「耳に馴染んだものの再現」という範囲にとどまっている。けれど、このアルバムへの意義はメンバーが感じているのはよくわかり、とても演奏は丁寧である。しかしそれは生硬と言った方がよく、パンチとかグル―ヴとかはとても希薄でのっぺらぼうだ。これが(3)の不満だ。

(1)はやはり納得がいかない。「アワ・プレイヤー」など、公式盤では山の向こうから響いてくるようなエコーがたっぷりだったじゃないか。その音響で「この曲は異次元だぞ」と感じたわけだから。
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【注目すべき曲たち】

・ロール・プリマス・ロック
『旧スマイル』では「ドゥー・ユー・ライク・ワームズ」という名前で親しまれていた。もう少しで完成というところまで編集は進んでいたんだということがわかる。2バージョンあり、もう一つの方も魅力的だったが

・バーンヤード
『エンドレス・ハーモニー』のサウンドトラックで初お見えしたデモバージョンのメロディが付け加えられている。親しんだものよりキー、テンポが低めである。

・ソング・フォー・チルドレン
『旧スマイル』では「ルック」とか「ホリディズ」などと呼ばれていた。もともとは歌が入っていなかったが、『新スマイル』では歌が入っている。このトラックも未完成だったというわけだった。

今回気付いたのだが、この曲のイントロは『旧スマイル』の「チャイルド・イズ・ファーザー・オブ・ザ・マン」の間奏と同じである。しかも『新スマイル』にも「チャイルド・イズ・ファーザー・オブ・ザ・マン」という曲があり、ごちゃごちゃになる。『スマイル』は同じメロディがいたるところに出てくるので混乱してくる。

・アイム・イン・グレイト・シェイプ
これも謎の一曲だった。「ヴェガテーブルズ」の後半が「アイム・イン・グレイト・シェイプ」だと言われていたりもした(野菜を食べてグレイト・シェイプ、ということなのだろう)。しかし『エンドレス・ハーモニー』のサウンドトラックで「アイム・イン・グレイト・シェイプ」と歌われたデモバージョンのメロディが発見された。そのデモバージョンは「バーンヤード」とくっついているが、やはり歌詞通り、この曲が「アイム・イン・グレイトシェイプ」で正解だったのだろう。

・アイ・ワナ・ビー・アラウンド
これも歌入りは初めて。『旧スマイル』ではよくこのオケだけで、曲名を言い当てたものだ。

・オン・ア・ホリディ
『旧スマイル』では「トーンズ/チューンX」と呼ばれていた。これも歌入りは初めて。というより、この曲に歌が入ると誰が考えただろう。魅力は薄かったが、インストとしてかなり完成していたからだ。そっか、歌が入ってなかったから魅力薄だったのか。「ロール・プリマス・ロック」のメロディがバックで流れ、統一感を強調する。

この曲は録音が遅かったので、ブライアンが『旧スマイル』のコンセプトを変更した後に作られたと思われていたが違っていたのだということだろう(こう「完成させられて」しまった以上「だということだろう」という言い回しになってしまう)。

先述したとおり『旧スマイル』には「ホリディズ」と呼ばれていた曲があり混乱を招く。「ホリディ」という言葉がそう簡単に出てくるとは思えないので、おそらくブライアンの自叙伝の記述から推測されてあてがわれたのだろうが、その自叙伝には「トーンズ/チューンX」と「ホリディズ」はバラバラに記述されていたので「トーンズ/チューンX=ホリディズ」とは少し納得がいかない。やはり、この『新・スマイル』の制作にあたって、コンセプトはあらたに練り直されたのに違いない。歌詞も「ウィンド・チャイムズ」に繋がるのも少しでき過ぎている

歌詞と言えば、「オン・ア・ホリディ」歌詞のクレジットは、しっかりとヴァン・ダイク・パークス(『旧スマイル』の共作者)である。昔から歌詞があり歌入れがされていなかったのか、もしくは今回書き足されたのか、そのあたりも不明である。私は出来過ぎと思う。

・ミセス・オリアリーズ・カウ
いわゆる「ファイア」のこと。この半音進行と弦のグリッサンドは実にかっこいい。歪んだギターがかぶせられ、ちょっと安っぽいヘビメタ調になったのが少し残念だ。

・イン・ブルー・ハワイ
『旧スマイル』では「ウォーター」「アイ・ラブ・トゥ・セイ・ダ・ダ」と言われていた曲。これも歌詞入りは初めてである。これももちろんヴァン・ダイクが歌詞を書いている。これも当時からあったのか、今回書き足されたのかは不明。

『スマイル』には土・火・風・水、という「エレメンツ」というコンセプトがあると言われ続けていて、おそらく「ヴェガ-テーブル」「ミセス・オリアリーズ・カウ」「ウィンドチャイムズ」「イン・ブルー・ハワイ」がそれの回答だろう。そしてその4つの要素をまとめると、ラストの「グッド・ヴァイブレーション」になる、ということだろう。

けれど、「プリマス」〜「ハワイ」というように、アメリカのルーツをたどるようなコンセプトも『スマイル』には込められており、それが「エレメンツ」に混入するなど、やはりどうも不徹底の感はある。

それに『新スマイル』にはもう一つのコンセプトが与えられている。それは「人類というもの」である。「ワンダフル」から「サーフズ・アップ」の流れである。人類の誕生から崩壊までが短いながら描かれている。

その3つを有機的に結びつけることは、さすがにブライアン・ウィルソンでも出来なかったに違いない。そして、その高みを彼は目指していたからこそ、『スマイル』をなかなか完成できなかったのに違いない。

その高みへの憧れは、今でもブライアンにあるだろうし、それはブライアンのファンも同様だろう。その憧れを持ち続けられるだけで、人間は幸せなのかもしれない。

『スマイル』は・・・・きっとみんなの心の中にあるのだ(←くせえな)。

【使われなかった曲】
・ユー・アー・ウェルカム
これが『スマイル』のラストを飾るという噂もあったため、これが未採用というのは意外だったのではないだろうか。ちなみに、アナログ盤シングルの「グッド・ヴァイブレーション」のB面に、新録されたものが切られている。コンセプトの再構成で見送られたか。

・ヒー・ギヴズ・スピーチズ(シーズ・ゴーイン・ボールド)
これも『前スマイル』の時に録音はされていたが未採用。「シーズ・ゴーイン・ボールド」の名で『スマイリー・スマイル』に収録され、この短い曲がひとつのサイケな世界を形作るまで拡張されている。聴きものである。

・ウィズ・ミー・トゥナイト
これも未採用。「スマイリー・スマイル」に再録音され収録され、『前スマイル』バージョンとは打って変った、暗い歌になっている。

・ジョージ・フェル・イントゥ・ヒズ・フレンチホルン
これは、トランペットの音色を操作して、まるで会話をしているような、変なトラックである。9分ある。曲とは言い難いが、笑い声や、食器をたたく音などが収録された『スマイル』にあって、その「スピリット」はしっかり受け継がれているといえる。
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この文章を書くにあたり、以下の文献からの知識・見識が大変役に立ちました。ありがとうございました。

SLIME―THE BEACH BOYS‐SMILE 徹底解析書

エンドレス・ハーモニー
エンドレス・ハーモニー(ライナーノート:萩原健太氏)

2011年8月2日の音楽展望、告知なしでお休みしてしまいました。申し訳ありません。

レポートで32時間ぶっ続けで作業しておりました…。

また来週お会いしましょう。

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